2024/07/31今週の一言

 今回はアブサロム(「平和の父」の意)、ダビデ王の三男です(サムエル記下3章3節)。彼の母親はゲシュル王タルマイの娘であるマアカ。ゲシュルはアラム人の小国です。ダビデはペリシテ人の家臣だった時にゲシュルを略奪していましたが(サム上27章8節)、その後ゲシュル王との政略結婚によって彼の娘を自分の妻としたのでしょう。アブサロムは南ユダ王国の初代首都ヘブロンで生まれます。

 アブサロムには同腹の妹タマルがいました。異母兄アムノンがタマルを強姦したことをアブサロムは深く恨み、事件の二年後に王位継承者アムノンを殺します(そのほかの王子全員も殺そうとしたが未遂)。アブサロムは母方の祖父の家ゲシュルに亡命します(サム下13章37節)。それから三年後に帰国が許され、さらにそれから二年後にダビデ王に会うことが許されました(同14章28節)。ダビデは三男アブサロムを偏愛していたので彼を厳罰に処しません(同13章39節)。あるいはアブサロムのアムノン殺害は、妹タマルの名誉の回復を図る「正当な復讐行為」としてある程度認容されていたのかもしれません(同14章27節)。

 王位継承者となったアブサロムは王の代わりに裁判を行い、民衆の心を盗み、反乱を準備します。黙っていても王位を継げる彼がクーデターを起こした理由は謎です。おそらく母バト・シェバの後ろ盾でソロモンが王位継承者に名乗りを上げていたからだと推測します。危機感を持つ四十歳アブサロムは、生地ヘブロンで王と名乗り、ダビデの町・エルサレムを私兵で陥れます(同15-16章)。

 ダビデ王は命からがら逃げますが、ここからが軍事・調略の天才ダビデの本領発揮です。スパイも用いて、あっという間に巻き返し反乱を鎮圧してしまいます(同17-18章)。アブサロムは敗走中に殺されます。美しさを称えられていた髪の毛の量(同14章25-26節)が皮肉にも災いしました。髪が樫の木の枝に引っかかって宙づりとなったところを刺殺されたのでした。「平和の父」により。JK