今回は、とあるサマリア人の女性です(ヨハネ福音書4章)。
イエスはユダヤ地方とガリラヤ地方とを移動する際にサマリア地方を通っていたようです(ヨハネ4章3節、ルカ9章52節)。この行動はユダヤ人としては奇妙なものでした。サマリア人を嫌忌し蔑視するユダヤ人は、ヨルダン川東岸のデカポリス地方を迂回することを常としていたと言われています。
サマリア人の聖地・聖山・ゲリジム山のふもとのシカルという町にイエス一行が着いた時のこと、サマリア人女性はイエスにばったり出会います。彼女がまず驚いたことは、ユダヤ人がサマリア地方の奥深くを旅していることです。そして開口一番、彼女に向かって願います。「水を飲ませてください」(ヨハネ4章7節)。
彼女は警戒します。ユダヤ人男性によって惹き起こされた、サマリア人に対する数々の蛮行が思い起こされます。ほんの百数十年前に、ゲリジム山の神殿を焼き討ちにされた記憶がシカルの町には語り継がれています。
女性はやんわりと願いを断りますが、イエスは不可思議な論法で食い下がります。「あなたの方からわたしに『生ける水』を求めるのが自然なのだがね」(同10節)。つい彼女はこの言葉に引き込まれ、永遠の生命の水をイエスに求めてしまいます(同15節)。乱暴なことはされないという安心からでしょう。
彼女はさらに無礼な要求を受けます。「あなたの夫を呼べ」(同16節)。流石にムッとしてはっきりと断る彼女。しかし、イエスは自分が彼女の人生の辛酸を良く知っていることを示したくて、あえて夫について言及したのでした。彼女は「夫と死別した場合にその兄弟と結婚しなくてはいけない」という律法(申命記25章5節)に苦しめられていたのかもしれません。彼女はこの問答の中でイエスを礼拝し、「キリスト告白」に導かれます(ヨハネ4章19節以下)。サマリアに教会が建った時に彼女は中心的な役割を果たしたと思います(使徒言行録8章)。JK