今回はタマルというカナン人女性です(創世記38章)。
タマルはエルという男性と結婚しました。エルの父親はヘブライ人ユダ、母親はカナン人シュアの娘です。エルは若死にします。家父長制のもと家長ユダは家名存続のために、次男オナンとタマルを結婚させます。レビラート婚という制度です。ところがこのオナンも死に、「ユダの家」の後継ぎには三男シェラしか残らなくなった時に、ユダは末息子が死ぬことを恐れます。「タマルと結婚することが原因で長男・次男が死んだ」と根拠なく思い込んだのです。彼は法制度に違反してタマルとシェラを結婚させず、タマルを「彼女の父の家」に帰します。
これは不当な扱いです。タマルは、舅ユダの不法行為に抗議し、自らの名誉を守るために、大胆な計画を立てます。ロトの娘たち、ナオミ、ルツの逸話と一脈通じるタマルの行動です。
タマルは娼婦に変装し、舅ユダを客として性交渉をし、ユダの子どもを生み、その子どもをユダに認知させ、ユダの「家」に再び入ろうとします。ユダの「嫁」としてではなく「妻」として。そして、ユダの妻が死んだ後、彼女はこの計画を完璧に実行します。ユダはタマルだとは知らずに彼女を「買い」、彼女を妊娠させ、その胎児を自分の子どもと認知するように導かれました。
物語全体はタマルを非難せず、むしろ彼女の知恵と勇気を賞賛しているように読めます。彼女が双子を生んだことはリベカの出産を思い起こさせます。その一方で物語は不実な男性ユダを告発し、ユダも素直に悔い改めています。「私よりも彼女の方が正しい」(26節)。彼のこの言葉がタマルの名誉を回復させました。
ユダ部族はカナン人タマルの子孫たちによって成ります(歴代誌上2章)。タマルもダビデやイエスの直接の先祖です(マタイ福音書1章3節)。それにしても女偏に家と書く「嫁」とは、はて。JK