2024/11/06今週の一言

今回はテュロス(新共同訳「ティルス」、口語訳「ツロ」)に住むフェニキア人女性です(マルコ7章24ー30節//マタイ15章21ー28節)。テュロスはフェニキア地方の大港湾都市でした。この町にも後50年代にはキリスト教会があったことは確実です(使徒21章3節)。フェニキア地方の都市ではあるけれども、ギリシャ語を使う人が多数住んでいたとされます。その大都会に住んでいる一女性。彼女についてはフェニキア人であること、ギリシャ語を第一言語としていること、汚れた霊に取りつかれた幼い娘がいることしか伝えられていません。

 後30年ごろ、ナザレのイエスがテュロスに来ました。そしてとある家に宿泊しているというのです。ガリラヤ地方におけるイエスの活動の噂、特に悪霊祓いの奇跡行者であることの噂が、テュロスにまで及んでいたようです。彼女は急いで、その家を訪れ、イエスの前にひれ伏します。そして「娘から悪霊を追い出してほしい」とギリシャ語で頼むのです。

 イエスの返答はつれないものでした。「まず、子どもたちが満足するようにせよ。子どもたちのパンを取り上げて、子犬に投げるのはよくない。」「子どもたち」はユダヤ人の比喩、「子犬」は非ユダヤ人の比喩でしょう。つまり、先に救われるのはユダヤ民族でありフェニキア人ではないという主張です。むむむ。

 女性は間髪入れずに応答します。「はい。主よ、食卓の下の子犬でさえも子どものパンくずを食べている」。「いいえ」ではなく「はい」と応えるところに知恵があります。子どもに先にパンを与えたとしても、現実には子犬と子どもは同時に同じパンを食べることができるというのです。彼女の機知に富んだ言葉に、慣れないギリシャ語を使うイエスは論破されました。「この言葉通りに(なるように)。あなたは行け。あなたの娘から悪霊は出て行った。」

この母娘の家でテュロスの教会が創設されたのかもしれません。 JK