2025/03/05今週の一言

今回は列王記上17章8-24節に登場する女性です。名前が知られていないこの女性はシドンのサレプタに住んでおり、夫と死別した、いわゆる「やもめ」です。彼女には一人の息子がいました。

女性の貧困は人類始まって以来の社会問題です。職業を持つこと選ぶこと出世することに制約があるため、経済的に不利なのです。古代においてはなおのこと。この仕組みのもと、父親や夫、つまり家父長制のもとにある「家」に依存せざるを得ません。女性にとって、夫と別れることは即貧困を帰結します。

日照り続きのサレプタに飢饉が起こりました。収穫が無ければ落穂拾いすらできません。赤貧に追い打ちをかけられた彼女は、わずかに残る小麦粉と油を使い切って、息子と餓死をする道を選ぼうとしていました。するとそこへ一人の風来坊が訪れ、一杯の水と一切れのパンを彼女に求めます。神の裁きとしての飢饉の到来を王に告げ、王権を批判し追っ手を逃げている指名手配の預言者エリヤです。彼女は事情を淡々と語り彼の求めを断ります。

この言葉が飢饉の原因を作った預言者の心を強く揺さぶり動かしました。彼は彼女とその息子とを救います。日照りの間、彼女の家にだけ小麦粉と油が満たされるようにしたのです。二人は飢餓の窮地を脱しました。

ところが喜びもつかの間、一人息子は原因不明の大病により間もなく死んでしまいます。彼女は、預言者エリヤに猛抗議します。「息子を病死させるために餓死を免れさせたのか」という痛烈な批判に、彼はたじたじとなります。そして、息子を蘇生するという奇跡を起こすのです。この物語は、聖書の中で初めて死人がよみがえる記事です。

サレプタの女性は、預言者の奇跡を引き起こす、力ある言葉を持っていました。ツロ・フェニキアの女性と響き合っています(マルコ7章24-30節)。JK