2025/06/04今週の一言

今回は漁師の網元ゼベダイの妻、彼女の名前は知られていません。

彼女にはヤコブとヨハネという息子がいました。その他にも息子娘がいたかどうかは不明です。二人の息子がいつものように父親と一緒に漁に出た、とある日のこと、帰宅したのは夫ゼベダイだけでした。聞けば、「自分は倅どもに棄てられた」「シモン、アンデレ兄弟も辞めて行った」とか(マタイ4章18節以下)。

彼女は夫ゼベダイの家を出て、息子たちを追います。息子たちが母である自分を棄てたとは思えなかったのです。そして「父の家」を棄てた息子たちの覚悟を確認し、夫が雇っていたシモンとアンデレ兄弟もイエスに同行していることを確認します。彼女は四人の漁師を魅了したイエスに会います。

シモンの義母が癒されイエスの弟子になった出来事を彼女は目撃していたのかもしれません(同8章14節以下)。ゼベダイの妻も夫を棄ててイエスの後ろを歩く弟子となり、ガリラヤ中を巡り歩き、エルサレムまで向かう旅に同行します。

彼女はエルサレムに到着する直前に、師イエスに直訴します。イエスがユダヤ人の王となる時に、息子たちを第二位の者・第三位の者に就かせてほしいというのです(同20章20節以下)。彼女もまたユダヤ民族主義に基づく政治的軍事的メシアを待ち望む一人でした。イエスをそのようなメシアと考える風潮は弟子集団全体が共通して持ち合わせていたのでしょう。

イエスの処刑によって民族主義者たちの夢は砕け、弟子たちは離散します。しかしその中でも彼女は、マグダラのマリアやイエスの母マリアと共に、遠くから十字架を見守ります(同27章56節)。息子たちは師を棄てたのですが、彼女は棄てきれなかったのでした。

ゼベダイの妻は、民族主義を超えたキリスト教会創設における「最初の120人」の一人だったと推測します。JK