今回は「シェバの女王」と呼び慣わされている女性についてです。このように彼女を呼ぶのであれば、男性の王も「男王」と呼ぶべきでしょう。ヘブル語は女性名詞と男性名詞を区分するのですから。
シェバ王国(創世記10章7節「セバ」と原語では綴りが同じ)の位置は、アラビア半島の南(現イエメンの辺り)という説と、エチオピアという説に大別されます。いずれにせよパレスチナから見て「南」の国です(マタイ12章42節)。エチオピア説は、キリスト教諸派の中のエチオピア正教会の正統性を根拠づけるために作られた伝説でしょう。聖書内の証言に従えば、アラビア半島南部にシェバ王国があったと考える方が自然です(ヨブ記1章15節・6章19節)。この国は前8-6世紀に香料貿易で栄えました。王は、ソロモンの名声を聞きつけ、彼の知恵に感服して香料や宝石類を贈ります(列王記上10章1-13節)。この記事は、シェバ王国がイスラエル王国の属国となったということを示唆しています。
イスラム教正典クルアーン(コーラン)に彼女はビルキスという名前で登場します。指導力の強い優れた統治者です。そして聖書記事とは逆にソロモンが彼女の名声を聞きつけ、イスラエル王国に服従するようにと彼女に手紙を送り付けています。ビルキスは家臣らを集めて「この外圧にどう立ち向かうか」の協議をし、贈り物を送って軍事侵略を避けようとします。平和外交こそが共存共栄の道ということを、話し合いという平和的手段で見出します。民主的指導者です。
列王記上10章は、「知恵」をめぐる物語です(4・6・7・8節)。多くの贈り物を携えながらビルキスはソロモンと外交交渉をします。戦争や軍事占領、著しく不平等な二国間関係をつくることは、知恵のある政策ではない。彼女は、どんな質問にもべらべらとよく喋る彼を褒めながら、手玉に取ります。ビルキスは知恵の探求者であり(マタイ12章46節)、知恵の実践者です。JK