知憲のススメ9 第5条【摂政】 

皇室典範の定めるところにより、摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条の第一項を準用する。

第2条に引き続き、またもや登場しました「皇室典範」。法律の名前までが憲法に明記されているのは皇室典範だけです。一般的には、第4条の2項のように「法律の定めるところにより」と書くものなのです。この扱い方の違いは皇室典範が明治憲法と同時に制定され(明憲告文)、しかも、帝国議会の承認がなくても改正することができたという性質のゆえでしょう(同73条)。明治憲法を日本国憲法に改正する時点において、皇室典範は他の法律に比べて格上・別格だったのです。わたしたちは今や他の法律と同列に考えなくてはいけません。「国会の議決した皇室典範」と2条で明記しているからです。皇族に対する「畏れおおさ」「ありがたみ」「菊のタブー」を克服する必要があります。

ともかく、皇室典範は摂政をどのような場合に置くべきか、どのような手続で誰が就任すべきか、いつ辞任するのかについて、16条から21条まで割いて丁寧に規定しています。その中で特徴的なことは、男性皇族の後の順番ではありながらも、女性の皇族(皇后・皇太后・太皇太后・内親王・女王)も摂政に就くことができるとしていることです。同じ皇室典範が天皇を男性に限り、摂政については女性も許すという不整合はどうなのでしょうか。女性天皇容認論の一つの根拠です。

摂政とは包括的な代理人のことです。未成年者に対する保護者のイメージで構いません。皇室典範16条に、「天皇が成年に達しないとき」や「身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないとき」に、摂政が置かれ、すべてを「天皇の名で」代理するのです。天皇の仕事をすべて代わって自己の判断でできるのですが、しかし天皇自身が行ったこととみなし効果はすべて天皇に帰属する、このことを包括的な代理と言います。摂政を経験した女性が天皇になることには実務上何の支障もなさそうです。

「準用」という法律用語にも説明が必要でしょう。これは同じルールをあてはめますよという意味です。つまり、「前条の第一項を準用」ということは、「第4条1項の『天皇は、この憲法に定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する機能を有しない』というルールは、摂政にもあてはまりますよ。『摂政は』と主語を読み替えてください。」という意味です。このように準用はある意味で便利です。条文が長くなることを防ぐからです。その一方で準用は別の意味で不便です。いちいち、「前条ってどこだっけ」と、前や後のページを手繰らなくてはいけないからです。